岐阜県岐南町のハラスメント事案に対して思うことと、これからのセクハラ対策
こんにちは、ハラスメント対策専門家の山藤祐子です。
2024年2月29日、岐阜県岐南町の小島英雄町長が辞職届を出しました。
遡ること2日前の2月27日に、町が設置した第三者委員会が、町長がセクハラ・パワハラを日常的に行っていたという報告書を公表したときには「一方的な内容」だと反論していましたが、その後「心が折れた」と辞任を決めたようです。
こうした報道を見るたびに、特にセクハラをする人の発言から「身勝手さ」「自己防衛」を感じざるを得ません。
また同時に、同じセクハラ・パワハラ被害経験者として、被害を受けた方々の心が早く穏やかになることを祈ります。
町長さん、あなたが「心が折れた」と言っていい立場ではありません。
心が折れたどころか、一生のトラウマを背負った人が大勢いることを知ってほしいです。
さて、このニュースを受けて、テレビや雑誌から取材を受けましたが、あらためてこれからのセクハラ対策をお伝えしたいと思います。
セクハラとは
まずは、セクハラの定義です。
セクハラとはセクシュアル・ハラスメント(sexual harassment)の略。
職場で性的な嫌がらせをすることを指すものです。
性的な意味を持って体を触るなどの身体的な接触もあれば、言葉によるものも含まれます。
2020年6月1日から、男女雇用機会均等法第11条1項において、すべての企業は、職場でのセクハラを防止するよう義務付けられました。
セクハラをしがちな人 5つの特徴
続いて、どういう人がセクハラをしがちなのか、特徴を5つ挙げます。
- 性に対する考え方や捉え方が、人によって違うことを理解できていない
- 相手に対する共感力が低く、自分が感じていることは相手も感じていると思い込む
- 古典的な性役割の考え方に固執している
- 権威主義傾向が強い
- 自己愛が非常に強い
1.性に対する考え方や捉え方が、人によって違うことを理解できない
どんなことも、人によって考え方は違いますし、捉え方も変わります。
「性」に関しては、とても顕著に違いがあると思いますが、それがわからない、違いについて考えたこともない人が、セクハラをする人の中に多くいる傾向です。
たとえば「男性は性欲が強いものだ」「異性を好きになるのが普通」というような発言を、職場でしてしまう可能性があります。
この発言自体が、直ちに「セクハラ」を認定するものではありませんが、セクハラの行為につながる考え方を少なからず持っていることがわかるでしょう。
2.相手に対する共感力が低く、自分が感じていることは相手も感じていると思い込む
共感力が低く思い込みが強い。これがセクハラの問題を引き起こす一番の原因ではないでしょうか。
共感力が低い人は、相手がどう思っているかを、わからないうえに、自分が感じている感情や感覚を相手も同じように感じていると錯覚をします。
そのため、自分が相手を見て「どきどき、わくわくしている」という感情を持ったら、相手も「どきどき、わくわくしている」と思い込んでしまうのです。
そんなはず、ありませんよね?
今回も町長は「みんな町長と会ってうれしいと言っていた。だから頭を撫でた。体を触った」というような発言をしています。
「会ってうれしい=相手に触ってOK」
そんなはずがないのに、自分の都合の良い解釈になったわけです。
3.古典的な性役割の考え方に固執している
女性の役割、男性の役割、母親の役割、父親の役割を、昭和初期位のイメージのまま、令和にアップデートできない人がいます。
そんな人が職場で「これは普通の考え」だと発言してしまうと、行き過ぎた言動につながります。
たとえば「子を産むのは女性の仕事、いつ産むんだ?」また「子どもの作り方知ってるのか?」といったプライベートに踏み込むような発言を繰り返す傾向があります。
4.権威主義傾向が強い
職位が絶対であり、職位が高い人が、人ととして「えらい」と勘違いしている人。
また、「えらい」人は何をやっても許されると勘違いしているなど。
さらに権威があると、周りの人は自分に憧れているんだと思い込んでいる傾向があります。
5.自己愛が非常に強い
相手を傷つけることや、相手のパーソナリティスペースに土足でどかどか入るくせに、自分を攻撃されるような言動には敏感です。
今回も町長は辞職の際に「自分も被害者だ」と言っていました。
自分がやってきたことは振り返らないのに、自分に向けられた刃にはとても敏感になる傾向があります。
ここで、上記に示した5つの特徴をもつ人は、実は出世しているという事実に目を向けてみましょう。
言い換えれば、なぜ、セクハラをする人、パワハラをする人が、出世をするのでしょうか。
行動力があるようにみえる
共感力がないがゆえに、ばっさりと判断ができることが多く、行動力があるように見えてしまいます。実際に、行動が早かったり、変わり身が早い人が多いです。
権威主義だからこそ仕事をがんばる傾向がある
自分が部下の立場の際は、上司に従順であるため、上司としては仕事を与える機会が増えます。本人は権威を持ちたい欲求が強いので、人一倍仕事を頑張る傾向があります。
条件付きでコミュニケーション能力が高い
基本的に、人が好きであり、いろんな人と仲良くなれるため、ある一定の距離までは「いい人だね」と言われるようなコミュニケーション能力を兼ね備えています。
イヤな面に目をつぶってしまうような特性をもっている
イヤな面があっても、周囲が許さざるを得ない能力があるが故に許されてしまったり、そのまま年月が経ってしまったことなどがあります。たとえば「言葉はキツイけど、積極性はある」「嫌なことを言うけど、リーダーシップがある(あるように見える)」といったことです。
以上のような条件により、仕事ができるように見えることから、セクハラをする人、パワハラをする人であっても、出世コースを歩む人が多くなる傾向があります。
セクハラと認定された理由
冒頭で、セクハラとは、職場で性的な嫌がらせをすることを指すと記しました。
とはいえ、労働している社内だけの問題ではなく、取引先の事業主や労働者、顧客、患者なども対象です。
具体的には、「みだらな行為に応じなければ、この仕事をさせない」といった不利益を被ったり、「性的な言動」により就業環境が害されることです。異性間に限らず、同性同士であってもセクハラです。
今回、調査報告書に記載された「町長による不必要な身体接触・不快な言動の一覧」(99のリスト)に関しては、セクハラとされることもあれば、不適切行為なども含まれています。
一つの行動だけを切り取って、セクハラと認定されたわけではないことは、ご理解いただくほうがいいと思います。
セクハラと認定されたのは、嫌がっているにもかかわらず繰り返された事実があったことや、業務上まったく不要な場面で繰り返された問題が多数あったからだと考えられます。
岐南町公式ホームページ ぎねんねっと 岐南町ハラスメント事案に関する町の対応
https://www.town.ginan.lg.jp/4312.htm#ContentPane(2024年3月2日 最終アクセス)
これからのセクハラ対策
これまでは、セクハラ対策といえば、上司や相談窓口に相談したり、労働基準監督署などに相談するくらいでした。
証拠を集めて本人を追求する、弁護士に相談するということも、なくはないですが、なかなかにハードルが高いのではないでしょうか。
そこでこれからのセクハラ対策を紹介します。
相手に嫌なことは嫌だと伝える
これから、職場でセクハラのトラブルが起きた場合に、最初にすべきこと。
それは、相手に嫌なことは嫌だと伝えることです。遠回しではなく、はっきり伝えます。
明確に拒否をしてください。
行為を放置しても、改善されることはないですから、勇気をもって発言していくことが必要です。
もちろん、言えないから苦しいという気持ちは、痛いほどわかります。
しかしながら「自分だけが我慢すれば…」という時代ではありません。
社会全体的な問題として、声を挙げ続けていくことが必要だと考えます。
とくに、セクハラ体質の人は、相手のイヤな気持ちに気づかないですから、そのうちわかってもらえるだろうというのは通用しません。
まして、相手への共感力が低いセクハラ体質の人は、自分の都合の良いように解釈をします。
実際にあった例を紹介します。
<2人きりの食事に誘われ、断りたいとき>
- 「彼氏が心配するので行けません」と言われると、「彼氏が心配するから行けないだけで、二人で食事に行くのは嫌じゃない」と解釈する
- 「(上司が)結婚しているから、二人きりはダメですよ」と言われると「結婚が気になるだけで、二人きりの食事は嫌じゃない」と解釈する
これらの上司は、何度も執拗に部下を食事に誘い続け、部下が嫌がっていることに気づかず、断り文句が理解できず、セクハラと認定され懲戒になりました。
ですから「2人で行くことも、食事に行くことも、どちらも嫌だ」と、はっきり伝える必要があります。
自分では言えない、言いにくいという場合は、行為者に対し明確に伝えられる力のある人(行為者よりも立場が上の人など)から言ってもらいましょう。
起こったことはすぐに相談窓口に報告する
「こんなことくらいで…」と思わず、職場で不適切な行為があったら、すぐに報告しましょう。
我慢をしても、相手は変わりません。
当人に事実をつきつける
自分一人ではなく、ほかの誰かに協力してもらい、当人に証拠とともに事実をつきつけます。
何度断ってもやめてくれない場合は、「何度も断った事実」を録画、録音しておくのも効果的です。
セクハラの行為者は「やってない」「言ってない」と、否定してくることもあるからです。
簡単に折れない
どうしても、相手が変わらず態度を変えないと、「受け入れるしかない」と思うかもしれませんが、折れたら最後です。
どんどん調子にのって、被害が拡大していきます。
ダメなものはダメ、どんなことがあっても、簡単に折れないことです。
強い意志をもってのぞんでください。
専門家に助言をあおぐ
職場で相談してもあまり解決の兆しが見えない場合などは、セクハラに対して詳しい弁護士に相談をすることも、対策のひとつです。
自分だけで悩まないようにしてください。
転職する
ここまでやってきても、それでも相手が変わらない。
職場の人も放置している。
そんな状態であれば、自身の心とキャリアを守るために転職も一つの道です。
立ち向かわずに逃げることも考えましょう。あなたが、心をすり減らす必要はないからです。
すべての人が意識をアップデートしていくためにできること
今回の町長のケースのように、頭ポンポンや、体を触る行為は、本当に昔からありました。
しかし、それはたまたま法律が厳しくなく、触られた人が声を挙げる方法も場所もなかったため、仕方なく受け入れていただけです。
何度、触られても心が折れないように踏ん張って、仕事をこなしてきたに過ぎません。
喜んで受け入れていたはずがないのです。
もちろん、頭ポン、肩ポンを1回でセクハラにはなりませんが、だからといって、他人の身体に気安く触るのは絶対にやめましょう。
「うれしがっている」「喜んでいる」「触るのはコミュニケーション」と思っているなら、勘違いも甚だしいですし、まったくもって許される行為ではありません。
触られたほうも「触られたくない」「触られるのは不快だ」と、伝えていくことが必要ですが、その職場で働くすべての人がセクハラに対する意識をアップデートしていかなければ、今後も、岐阜県岐南町のような事案は発生するでしょう。
そのために、弊社でも実施しているハラスメント防止研修は効果的です。
仮に研修ができなくても、次のようなルールづくりはできると思います。
- 性別に関係なく、職場で他人の身体に気安く触らない
- プライベートに踏み込まない
- 相手の容姿をいじらない
つまり、ここは職場であり、仕事をする場所だという意識を忘れないこと。
それでも、残念ながら、共感力が低く自己中心的な考え方に固執する人は、どうしてもいます。
そういう人、つまりセクハラをしがちな人には、周囲が声を挙げていくしかありません。
職場の誰もが、嫌がらせを我慢せずに、仕事のことだけを考えられる状態が当たり前となることを願っています。
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